脇役

第一章:葬式

暗い部屋だった。狭い部屋だった。暑苦しい部屋だった。そこで延々の14歳ターシス・フェロティル・ダーマイマは手を胸に当て,棺に横たわっていた。どこにでもありそうな白いワンピースを着て。どこにでもありそうな長いストレイトな白と金の髪の毛で。カチューシャをしていたがそれも真っ白いカチューシャの端に貝殻をつけた。今頃の女の子が好きそうなものだった。ただ彼女を只者ではないと思わせるものとは,彼女の耳の魚のエラのようなアクセサリーだった。そして最後に,彼女の手首には,深緑色の、円形のブレスレットが意味ありげに収まっていた。彼女の葬式には,10人程度の人しか集まっていなかった。子供が3人,大人が(葬儀屋の若い男を含めて)7人だった。だが、大人は皆、何かこの場にあっていなかった。部屋は異常に暗く,おかしなの沈黙が流れていた。普通の葬式ではない異様な雰囲気だった。「では,喪主のスピーチです」葬儀屋が言った。この葬式は彼の最初の仕事だった。彼の黒い髪ははジェルで固めて綺麗に光っていており,彼の紺色のスーツは,彼が一週間前に,新調したものだった。でも何も、誰も動かなかった。事実、もし少しは考える人であれば、誰も動かないのが当たり前だった。喪主がいなかったのだ。それに気づいた葬儀屋は(彼はもっと早く気づくべきだったのだが,)彼の白い顔を一層白くして言った。「喪主はいますか?」{困った。喪主がいないのは前代未聞だ。もっと早く気づくべきだった、せっかくの念願の仕事なのに。(彼はどこかおかしかった)ただ、私のせいではないぞ}葬儀屋は思った。彼は,あまり勉強は得意分野ではなく,ルールも夜,徹夜で暗記したほどだった。(ひとつも覚えていないが)だが,大抵の状況がそうなように,心のつぶやきは雲とともに消えてしまうものだ。若い葬儀屋が葬儀家の偉い人に怒られている姿を想像した時だった。後列方のの隅にあるドアが光り始めた。若い葬儀屋は残念な事にあまり,「夢」なんてことを信じない人だったから彼は太陽の光が刺したと言って,聞かせた。実際に,この部屋は,ものすごく暗かった。だが、光り(葬儀屋いわゆる太陽の)は,尋常もないほどぐんぐん明るくなって行った。昔,神が地に降りた時に、人々は神の姿を直接見れなかったという。まさにこのことだろう。誰もが黙っていた。いや,こんな状況の時に喋る人などいないだろう。部屋にいたものは1人残らず0.1秒だって逃すなと目を開いていた。だが、彼らはもう目が焼かれてると思うほど光は強くなっていた。その時だった。光がドアに吸い込まれた。たった少しの間で,部屋は元どうりの部屋になっていた。葬儀屋も一息ついたが,彼は後でそれを後悔するだろう。「一度あることは三度ある」。彼の一息を待っていたように,2度目の事が起ころうとしていた。ドアが通常の明るさに戻ったとき,ターシスが入っている棺の横に蝋燭を持った1人の少女が立っていたのだ。彼女は変だった。可笑しかった。変わっていた。昔を思わせる時代遅れの緑のワンピース。首には鉄砲の絵が描かれた首飾りをかけており,髪飾りは貝と真珠でできた髪飾りをつけ、耳には,ターシスがつけていたものと全く同じデザインの色違いをつけていた。何より,この少女を変に見せたのは,彼女の肩に座っている。1匹のサルだった。「動物や,ペットの持ち込みは禁止です!」やっと口を開いた葬儀屋が言った。普通,こういう状況では,その人物が誰か,どこからきたか,などと尋ねるものだが,彼は完全に気が動転していた。「あら,人間だって動物よ」そして彼女は言葉を続けた。「ターシスは生きなければならない。生きるのです。私の力が生かすのです。」すると真ん中の列から13,14歳くらいの少女が叫んだ。「彼女は死んだのよ。彼女は生きられないのよ。生きかえさせれないのよ!」彼女は真っ黒い髪の毛を後ろに編み込みにしてまとめていた。洋服は真っ黒い喪服を着、靴も真っ黒かった。彼女の茶色の目は涙で溜まっていた。きっとターシスの親友なのであろう。「生きかえさせるの。ターハン。あなたも全ては可能だということを勉強しなきゃ。」「どうして私の名前…」「知ってるわ。私はあなたの母のようなものですもの。」確かにターハンには親がいなかった。ターハンは孤児であり,唯一のターシスの親友であった。「でも…」話を続けようとするターハンを少女は片手を上げて制した。「まあね。そりゃあ,難しいわよ。人を生き返らせるなんて。確かにね。でもちょっとしたゲームをクリアすれば,可能になるのよ。」少女の言葉に、叫んだものがいた。「ゲーム?それって僕もしていいの?」いかにもおぼっちゃまという服装だったが、彼の空色の目は,彼が礼儀正しく、親切であることを語っていた。そして,彼の目は彼が何か深い過去を持っていることを表していた。「あ、僕はレカンド。」が隣にいる母親のような女性に横目で睨まれ、付け足した。「あら,礼儀正しいのね。そうね。あなたもしていいわ。ただ、このゲームは子供だけよ。大人がいるとややこしくなるもの」レカンドの母親(のような女性)がなにかを言おうとすると少女が手を振っただけで、彼女は何も言えなくなった。「それじゃあ、僕もやらなきゃいけないの?」真ん中の列に座っていた眼鏡の男の子が叫んだ。「あら,あなた,自分が大人だと思っているの?」少女に見つめられて男の子は顔を赤くした。「それじゃあ、始るわ。」少女が棺に手を当てた瞬間,棺がものすごい音を出しながら開いた。爆音のような音に構わず少女は彼女の耳飾りを人差し指で優しく叩いた。するとターシスの深緑の腕輪が緑色に光、だんだん、強くなり、気づいた時には棺の50cmくらい上に浮かんでいた。誰も声を出さなかった。出せなかった。ただの沈黙だった。その静かなひと時を破るようにターハンが叫んだ。「始まるの?ゲームが,始まるの?ねえ!始まるの?」少女は迷子の猫を見るような目でターハンを見つめた。「ええ。始まるわ。そして終わるの。ゲームがね。ルールは簡単。あなたたちの正体と真実,それを理解するだけ。あなたたちが本当にそれを理解した時、それはあなたたちの勝ちでゲームオーバー。あなたたちの負けは難しい。ただし、ひとつだけあなたたちを負けにするものがある。誰か1人でも生きる意味を失ってしまったら,おしまい。ゲームオーバー,つまり終わりよ。大丈夫。あなたたちには女神がついてる。」「まって。ゲームの設定は?舞台は?レベルアップとかするの?命は?」眼鏡の男の子が聞いた。少女は風船が萎むときのような,変な音を出して笑った。「これはビデオゲームじゃないの。だからレベルとかステージとかなんだこんだはなし。舞台は……」少女は彼女の顔に,一瞬焦りを出した。「朗らかなところよ,行けばわかる。あなたの命は通常通りひとつだけ。ただ命を落とすなんて,よっぽどのことが無ければないわ。これでいい?」誰も,何も言わなかった。「そう,いいのね。じゃあ始めましょう」ターシスがしていた深緑の腕輪がより,一層輝き始めた。ターハンが目を手で覆いながら、叫んだ。「どういうこと?! 正体と、真実って‥どういう意味?お願い答えて!」緑の輝く光の中,少女の目がターハンを捕らえた。「私はミナ。ふふふふふ,いっつもどこでも話の中に。だけどいつでも気づかない。どんなに笑って,頑張って,星に届こうと頑張ると,やっぱりダメだと自分が囁く。誰誰誰?誰でしょう。うふふふふ‥……ふふ……ふ…」葬式の部屋はもう緑に包まれていた。何か,とてつもない冒険が始まろうとしていた…

 

次回:第二章-出会い